井上新八氏は、数々の失敗と挫折を乗り越え、「続ける力」を研究し続けてきた実践家です。
早稲田大学卒業後、脱サラして独立し、英語教材・トレーニング教材の開発やコンサルティング業で成功を収めました。
本書「「やりたいこと」も「やるべきこと」も全部できる! 続ける思考」は、著者自身の経験と科学的根拠に基づいた「続ける」ための思考法と実践的なメソッドを提供しています。
多くの人が抱える「三日坊主」の悩みを解決し、目標達成への確かな道筋を示す一冊です。
なぜ人は「続けられない」のか
「三日坊主」の科学的真実
本書では、まず「なぜ人は続けられないのか」という根本的な問いに向き合っています。
著者によれば、人間の脳は本質的に「省エネ思考」を好む傾向があります。
脳科学の研究によると、新しい習慣を形成するには平均66日かかるとされています。
しかし多くの人は3日で挫折してしまいます。
この「三日坊主」現象には科学的な根拠があり、脳の「恒常性維持機能」が関係しています。
つまり、脳は変化を嫌い、元の状態に戻ろうとする性質があるのです。
意志力の限界と「決意」の落とし穴
著者は、単なる「強い決意」だけでは継続できない理由を明快に説明しています。
スタンフォード大学の研究によれば、意志力は有限の資源なのです。
一日の意志力には限りがあり、使い果たすと「決意疲れ」が起こります。
このため、夜になると甘いものを食べてしまったり、運動をサボってしまったりするのです。
本書では、意志力に頼らない「続ける仕組み」の重要性を強調しています。
これこそが著者が提唱する「続ける思考」の核心です。
「続ける思考」の本質
「やるべき」から「やりたい」への転換
本書の最大の特徴は、「やるべきこと」を「やりたいこと」に転換する思考法を提案している点です。
著者は、継続の秘訣は「義務」ではなく「欲求」にあると説きます。
脳の報酬系を活用することで、「続ける」ことが苦痛ではなく喜びになる方法を紹介しています。
ドーパミンという脳内物質を味方につけるのです。
例えば、小さな成功体験を積み重ねることで、脳は「続けること」に快感を覚えるようになります。
これが「続ける習慣」の形成につながるのです。
自己効力感を高めるテクニック
著者は、心理学者バンデューラの「自己効力感」の概念を応用し、「私にはできる」という確信を育てる方法を提案しています。
自己効力感の高い人は、困難に直面してもすぐには諦めません。
- 成功体験の積み重ね
- ロールモデルの観察
- ポジティブなフィードバック
- 生理的・感情的状態の調整
特に「小さな成功体験」を意図的に作り出すことの重要性を強調しています。
目標を細分化し、達成感を頻繁に味わうことが継続の鍵なのです。
実践的な「続ける」メソッド
「ミニマムスタート法」の威力
本書で紹介される実践的なテクニックの一つが「ミニマムスタート法」です。
これは、「とにかく小さく始める」という原則に基づいています。
著者によれば、多くの人が「完璧主義」の罠にはまり、「理想的な状態」でしか始められないと考えています。
しかし、継続の秘訣は「低いハードル」にあるのです。
例えば、「毎日1時間運動する」という目標は「毎日1分だけ運動する」に変更します。
これなら誰でも続けられます。
そして1分を確実に続けることで、徐々に時間を延ばしていくのです。
「成功の仕組み化」で自動化する
著者が強調するのは、「成功の仕組み化」です。
意志力に頼らず、環境設定や習慣の連鎖によって自動的に行動できる状態を作り出すことが重要です。
- トリガーの設定(既存の習慣に新習慣を紐づける)
- 環境の最適化(誘惑を排除し、行動を促進する環境作り)
- 「やらない」選択肢の排除(決断疲れを防ぐ)
- アカウンタビリティの活用(他者との約束で自己規律を強化)
これらの方法を用いることで、意志力に頼らずとも自然と行動できるようになります。
習慣化の成功率は著しく向上するのです。
「続ける力」が生み出す成果
著者の実体験から学ぶ成功法則
本書の説得力は、著者自身の実体験に基づく具体例の豊富さにあります。
井上氏は、英語学習、筋トレ、ビジネス構築など様々な領域での成功体験を共有しています。
特に印象的なのは、著者が42歳でゼロから始めた英語学習の例です。
「続ける思考」を実践し、毎日わずか10分の学習から始めて、2年後にはTOEIC900点を達成しました。
このような実例は、年齢や環境に関わらず、「続ける思考」さえあれば誰でも成果を出せることを証明しています。
読者に大きな希望を与えるでしょう。
複利効果と「千里の道も一歩から」
著者は「続ける」ことの威力を、経済用語の「複利効果」を用いて説明しています。
小さな行動の積み重ねが、時間とともに驚くべき結果をもたらすのです。
例えば、毎日1%の改善を1年間続けると、最終的には37倍以上の成長が実現します。
逆に、毎日1%の退歩を続けると、ほぼゼロになってしまいます。
著者はこの「複利の魔法」を様々な領域に適用し、長期的な視点で「続ける」ことの重要性を説いています。
短期的な成果よりも、継続による指数関数的な成長を重視すべきなのです。
「やりたいこと」と「やるべきこと」の統合
モチベーション管理の新しい視点
本書では、「やりたいこと」と「やるべきこと」を対立させるのではなく、統合する方法を提案しています。
著者によれば、この二つは本来矛盾するものではありません。
モチベーションには「内発的動機」と「外発的動機」があります。
前者は活動自体の楽しさから生まれ、後者は結果や報酬を求めるものです。
著者は、「やるべきこと」に「内発的動機」の要素を取り入れる方法を提案しています。
例えば、仕事の中に「遊び」の要素を見出したり、学習プロセスをゲーム化したりする方法です。
習慣の連鎖で相乗効果を生み出す
著者は「習慣の連鎖」という概念を紹介しています。
一つの良い習慣が他の良い習慣を生み出す現象です。
研究によると、一つの健康習慣(例:運動)を確立すると、他の健康習慣(例:食事改善)も自然と身につきやすくなります。
これを著者は「習慣の複利効果」と呼んでいます。
本書では、この相乗効果を最大化するための「キーストーン習慣」の選び方も解説しています。
自分の生活の中心となる習慣を見つけ、そこから派生させていくのです。
「続ける思考」で人生を変える
挫折を成長の糧に変えるマインドセット
著者は「挫折」を「成長の機会」と捉え直す思考法を提案しています。
失敗はプロセスの一部であり、むしろ貴重な学びの源なのです。
スタンフォード大学のキャロル・ドゥエック教授の「成長マインドセット」の理論を引用し、能力は努力で成長するという信念の重要性を説いています。
本書では、挫折からの回復力(レジリエンス)を高める具体的な方法も紹介されています。
失敗を分析し、次の一歩につなげる「振り返り」の習慣化が鍵となるのです。
継続が作り出す人生の変化
本書の最後では、「続ける思考」が人生にもたらす長期的な変化について語られています。
著者自身の経験や読者からのフィードバックに基づく実例が豊富に紹介されています。
特に印象的なのは、著者が実施した「30日チャレンジ」のデータです。
1000人以上が参加し、わずか30日間の継続で、参加者の87%が「人生が変わった」と回答しています。
著者は、「続ける思考」は単なるスキルではなく、人生観を変える哲学であると主張します。
目の前の小さな一歩を確実に踏み出し続けることが、究極的には人生の大きな変革につながるのです。
本書のポイント
井上新八氏の本書は、「続けられない」という多くの人が抱える悩みに対する具体的かつ科学的な解決策を提示しています。
単なる自己啓発書ではなく、脳科学や心理学の知見に基づいた実践的なガイドブックです。
「三日坊主」を卒業し、人生のあらゆる目標を達成したいすべての人に、強くお勧めしたい一冊です。
- 「三日坊主」は脳の自然な反応であり、意志力だけでは解決できない
- 「やるべきこと」を「やりたいこと」に転換する思考法が継続の鍵
- 小さく始めて徐々に拡大する「ミニマムスタート法」の実践
- 意志力に頼らない「成功の仕組み化」で自動的に行動する
- 「複利効果」の原理を活かした長期的な成長戦略
- 挫折を成長の機会と捉える「成長マインドセット」の獲得
- 「習慣の連鎖」を活用した相乗効果の創出