キャリア開発・ライフデザイン

人生の経営戦略――自分の人生を自分で考えて生きるための戦略コンセプト20

山口周氏は1970年東京都生まれの独立研究者、著作家、パブリックスピーカーです。

慶應義塾大学文学部哲学科卒業、同大学院文学研究科修了後、電通、ボストンコンサルティンググループ等で戦略策定、文化政策、組織開発などに従事してきました。

『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』(光文社新書)でビジネス書大賞2018準大賞、HRアワード2018最優秀賞(書籍部門)を受賞した実績を持つ人気著者です。

本書『人生の経営戦略』は、経営戦略論をはじめとした経営学のさまざまな知見を、個人の「人生というプロジェクト」に活用するためのガイドを提供する作品です。

「私たちが、かつてない難しい時代を生きているから」という理由で執筆された本書は、人生の後半戦をより豊かで充実したものにするための戦略的思考法を提示します。

なぜいま「人生の経営戦略」が必要なのか

20年以上コンサルティング業界に身を置き、そこで企業に対して使ってきた経営戦略を、意識的に自身の人生にも応用してきた山口氏は、現代人が直面する問題に注目します。

「仕事ばかりでプライベートが悲惨な状態…」「40代で中年の危機にぶつかった…」「自分には欠点だらけで自分に自信が持てない…」こうした人生のさまざまな問題に「経営学」で合理的に答えを出すことが本書の狙いです。

自分の人生を単なる流れに任せるのではなく、戦略的に捉え、自らの目標や価値観に基づいて計画的に行動することを促します。

この考え方は、企業経営で用いられる戦略的思考を個人レベルに適用することで実現されます。

「人生というゲームのルール」を理解する重要性

「あなたは人生というゲームのルールを知っていますか?」という問いから始まる本書は、多くの人が人生を戦略的に考えていないことを指摘します。

企業が明確な戦略なしに成功することが困難であるように、個人もまた戦略的思考なしには充実した人生を送ることは難しいのです。

本書の構造と20の戦略コンセプト

本書は第0章から第5章まで構成され、目標設定、長期計画、職業選択、選択と意思決定、学習と成長について体系的に論じられています。

20の戦略コンセプト

目標設定について:人生における目的の明確化

長期計画について:戦略的な人生設計

職業選択について:キャリア戦略の構築

選択と意思決定について:合理的な判断基準

学習と成長について:継続的な自己投資

4つの資本による人生戦略フレームワーク

フレームワークでは、時間資本を適切に投資することで人的資本が生まれ、人的資本が社会資本を生み出し、社会資本が金融資本を生み出すという循環構造を説明しています。

「いい人生」を定義する3つの要素

本書の画期的な点は、ウェルビーイング研究を踏まえて「いい人生」を明確に定義していることです。

最大公約数となる要素を抜き出せば、次の3つに整理することができます。

  1. 自己効力感:自分に能力があり、何か意義のあることにそれを十分に活かすことで成長できているという実感、誰かの役に立つことで自分もまた高めているという実感
  2. 社会的つながり:職場や取引先から信頼・信用されているという実感、コミュニティ内の知人や友人や家族と友愛的・親和的な関係を築けているという実感
  3. 経済的安定性:経済的に安定しており、多少のことがあっても通常レベルの生活を維持していくのに不安がないという実感

各要素と資本の対応関係

この3つはそれぞれが人的資本・社会資本・金融資本に対応していることが本書の重要な洞察です。

これにより、時間資本がやっとウェルビーイングに接続されたのです。

金融資本への過度な傾斜への警鐘

本書が特に強調するのは、多くの人が陥りがちな「金融資本偏重」の危険性です。

金融資本の限界

「キャリア論」において、大きくフォーカスが当たりがちな「金融資本」は、ウェルビーイングを生み出すための一要素にしか過ぎないという重要な指摘をしています。

さらに、金融資本は一定の水準を超えてしまうとウェルビーイングの実現に貢献しないということがわかっていますと述べ、収入増加への盲目的な追求に警鐘を鳴らしています。

社会資本の重要性

多くのウェルビーイングに関する研究は「豊かな社会資本=友人や家族との関係性」が最も幸福実感に貢献することもまた明らかにしています。

この事実は、現代社会で見落とされがちな人間関係の価値を再認識させます。

「人生の敗者」にならないための戒め

金融資本を過度に追求することで「人的資本」や「社会資本」の形成をなおざりにしてしまい、本当の意味での「人生の敗者」になってしまう愚を厳に戒めなければなりませんという強いメッセージは、現代のビジネスパーソンにとって重要な警告です。

戦略的思考による人生設計の実践

本書は理論だけでなく、実践的な指針も提供しています。

時間資本の戦略的投資

どの資本に自分の時間を投下すべきですか?という問いに答えるため、本書では時間の使い方を戦略的に考える重要性を説きます。

金融資本の形成に自分の時間資本を過度に傾斜させてしまうという愚行を避け、バランス良く各資本に投資することが求められます。

真の成功の再定義

世間でもてはやされているような「成功のイメージ」の虚像にとらわれず、自分にとって本当に大事なものは何か?という論点を常に「人生というプロジェクト」の中心においてぶらさないことが重要だと強調されています。

現代的意義と読者への価値

時代背景との関連性

「私たちが、かつてない難しい時代を生きているから」という執筆理由が示すように、本書は現代特有の課題に対する解答を提供します。

働き方改革、人生100年時代、価値観の多様化といった社会変化の中で、個人が主体的に人生を設計する必要性が高まっています。

実用性の高さ

ビジネスの戦略論を個人の人生設計に応用することで、充実した人生を築くための指針を提示した一冊として、本書は単なる理論書を超えた実用性を持っています。

読書効果への期待

自分の「立ち位置」や「これから身を置く場所」をもう一度見直すきっかけになるはずという評価が示すように、読者の人生観を変える力を持った作品です。

おわりに

「人生の経営戦略(ライフ・マネジメント・ストラテジー)」というコンセプトを日常に取り入れることで、人生の後半戦をより豊かで充実したものにする手助けとなる本書は、従来のキャリア論を超えた包括的な人生戦略論として、現代を生きる全ての人にとって価値ある一冊といえるでしょう。

本書のポイント

4つの資本(時間・人的・社会・金融)の戦略的活用

ウェルビーイングを構成する3要素の理解

金融資本偏重からの脱却

戦略的思考による主体的な人生設計

現代社会に対応した新しいキャリア論