頼藤太希氏は、ファイナンシャルプランナーとして多くの個人相談に携わり、特に中高年の資産運用や老後設計に詳しい専門家です。
本書「50代から考える お金の減らし方」は、人生100年時代を見据え、50代からどのように資産を減らしていくかという、従来の「お金を増やす」発想とは異なる視点で書かれた経済書です。
増やすことだけに注目するのではなく、いかに効率的に減らして充実した老後を過ごすかという、新しい資産管理の考え方を提案しています。
なぜ今「お金の減らし方」が重要なのか
人生100年時代の資産管理の新常識
現代の日本人の平均寿命は男性81.47歳、女性87.57歳に達しています。
単純計算で30歳定年後の生活は50年以上続く可能性があるのです。
頼藤氏は、この長寿化時代において「お金を増やす」だけの発想から脱却する必要性を説いています。
従来の資産形成は「いかに増やすか」に焦点が当てられてきました。
しかし本書では、退職後の長い人生においては「いかに計画的に減らすか」が重要だと指摘しています。
特に50代は資産のピークを迎える時期であり、この先の人生設計を見直す最後のチャンスなのです。
データが示す日本人の老後資金の現実
本書で紹介されているデータによると、高齢夫婦世帯の家計は厳しい現実に直面しています。
夫65歳以上、妻60歳以上の無職の高齢夫婦の月収は約21万円で、そのうち年金が約18万円を占めています。
一方、支出は月に約26万円となり、毎月約5万円の赤字が生じています。
この不足分を補うためには、30年の老後に対して約1,800万円の資産が必要になります。
こうした現実を踏まえると、資産の効率的な「減らし方」が人生後半の生活の質を大きく左右することになるのです。
50代からの資産棚卸しと再設計
資産の「見える化」で始める老後設計
頼藤氏は、まず自分の資産を正確に把握することから始めるよう勧めています。
本書では以下のステップが紹介されています。
- 金融資産の総額を確認する
- 退職金の見込み額を計算する
- 将来受け取れる年金額を試算する
- 不動産などの実物資産を評価する
- 負債(住宅ローンなど)の残高を確認する
これらを「見える化」することで、実際に使えるお金の総額が明確になります。
著者は多くの相談者が自分の資産状況を正確に把握していないと指摘しています。
「守りの資産」と「攻めの資産」の区分け
本書では資産を「守りの資産」と「攻めの資産」に区分けする考え方が提案されています。
守りの資産とは、生活防衛資金として最低2年分の生活費を確保しておくべきお金です。
一方、攻めの資産はリスクを取って運用できるお金を指します。
頼藤氏は、50代からは守りの資産の確保を最優先に考え、それが確保できた上で残りを攻めの資産として運用することが重要だと説いています。
特に退職までの期間が短い場合は、リスク許容度を下げて安全性を重視した資産配分にシフトすべきという実践的なアドバイスも提供されています。
賢い「減らし方」の具体的戦略
税金・社会保険料の負担を最適化する方法
頼藤氏は、資産を減らす際の最大の敵は「無駄な税金や社会保険料の支払い」だと指摘しています。
- iDeCo(個人型確定拠出年金)の活用
- NISA(少額投資非課税制度)の最大限の利用
- 退職金の受取り方の工夫
- 配偶者控除や扶養控除の活用
- 医療費控除の計画的な利用
特に退職金については、一括受取りと年金受取りのハイブリッド方式を検討することで、税負担を大幅に軽減できる事例が紹介されています。
住まいの見直しによる資金捻出
家は多くの人にとって最大の資産であり、その活用方法が老後の資金計画を大きく左右します。本書では住まいに関する様々な選択肢が示されています。
住み替え(ダウンサイジング)によって余剰資金を生み出す方法や、リバースモーゲージを活用して住み続けながら資金を調達する方法が解説されています。
また、空き部屋の賃貸活用や親の家との同居・二世帯住宅化など、住まいを資産として最大限に活用する視点も提供されています。
特に注目すべきは、自宅を売却して賃貸に移る「持ち家の現金化」という選択肢です。
著者によれば、固定資産税や修繕費などのコストを考慮すると、資産価値が低下した持ち家を維持するより、売却して得た資金を運用する方が経済的に有利になるケースもあります。
相続と贈与の新しい考え方
「生前贈与」で家族に資産を移転する
頼藤氏は、相続税対策として「生きているうちに計画的に資産を減らす」ことを提案しています。
- ・年間110万円までの贈与非課税枠の活用
- ・教育資金の一括贈与(1,500万円まで非課税)
- ・結婚・子育て資金の一括贈与(1,000万円まで非課税)
- ・住宅取得資金の贈与特例の利用
これらの制度を活用することで、相続税の負担を減らしながら、子や孫の世代に効果的に資産を移転できます。
「使い切る」発想への転換
本書で特に印象的なのは「使い切る」という考え方です。
頼藤氏は「次の世代に残すためだけに節約するのではなく、自分の人生を充実させるためにお金を使う」という発想の転換を提案しています。
理想的なのは中央の「最適消費」であり、資産を計画的に減らしながらも生活の質を保つことが重要だと説いています。
新しい時代の老後資金戦略
「収入創出」という新たな視点
頼藤氏は、老後も収入を得る方法として以下の選択肢を提案しています。
- 定年後の再雇用や副業の活用
- スキルや趣味を活かした小規模ビジネス
- 投資による配当収入の確保
- 不動産収入の活用
特に、75歳までの「就労」と「年金受給の繰り下げ」を組み合わせることで、生涯受け取る年金額を最大化できる戦略が紹介されています。
デジタル時代のマネーマネジメント
デジタル技術の進化は高齢者の資産管理にも新たな可能性をもたらしています。
本書では、高齢者でも活用できるデジタルツールについて詳しく解説されています。
家計簿アプリを使った支出管理の方法や、ポイント還元サービスの効果的な活用法が紹介されています。
また、オンラインバンキングの安全な使い方や、投資管理アプリの活用方法など、デジタルリテラシーを高めることで資産管理の効率化を図る提案がなされています。
著者は、これらのデジタルツールを使いこなすことが、老後の資産を効率的に管理し、計画的に減らしていくために重要だと強調しています。
本書のポイント
「50代から考える お金の減らし方」は、従来の「お金を増やす」発想から「計画的に減らす」という新しい視点を提供する一冊です。
本書は、50代が資産のピークであり、老後に向けた「減らし方」を考える最適な時期であることを明確に示しています。
資産の「見える化」から始め、守りと攻めの資産に区分けすることの重要性が強調されています。
また、税金や社会保険料の負担を最適化して無駄な支出を減らすことや、住まいの見直しも含めた総合的な資産設計の必要性も説かれています。
そして、「使い切る」発想への転換と、収入創出の視点を持つことが、これからの長い老後を豊かに過ごすための鍵となることが示されています。
本書は、老後30年を見据えた「資産の賢い減らし方」を学べる実践的なガイドブックです。50代からでも間に合う資産管理の新しい視点は、これからの人生100年時代を生きる全ての方に役立つ内容となっています。