松居温子氏は日本人でありながら長くドイツに暮らし、ドイツ人の時間に対する考え方や習慣を観察してきました。
本書「9割捨てて成果と自由を手に入れる ドイツ人の時間の使い方」は、効率性と生産性で知られるドイツ人の時間管理術を日本人向けにわかりやすく解説した一冊です。
著者は日独の文化比較を通じて、私たちが「忙しさ」から解放され、真の充実感を得るためのヒントを提供しています。
無駄を省き、本質に集中するドイツ流の考え方は、働き方改革が叫ばれる現代日本人にとって非常に示唆に富んでいます。
ドイツ人と日本人、時間感覚の違い
日本の「忙しさ信仰」とドイツの「効率重視」
著者によれば、日本では「忙しい=充実している」という価値観が根強く存在します。
会社に長時間いることが美徳とされる文化があります。
一方ドイツでは、限られた時間内で最大の成果を出すことが重視されています。
ドイツ人は「Zeit ist Geld(時間はお金)」という考え方を持っています。
彼らにとって時間は有限で貴重な資源なのです。そのため、効率性を高めることに注力します。
データで見る日独の労働時間の差
本書によると、ドイツ人の平均労働時間は年間約1,356時間です。
対して日本人は1,710時間と、年間で約350時間も多く働いています。
しかし、GDPや生産性ではドイツが日本を上回っているのです。
- ドイツ: 年間労働時間 約1,356時間、時間当たりGDP 約67ドル
- 日 本: 年間労働時間 約1,710時間、時間当たりGDP 約46ドル
この数字が示すように、長時間労働が必ずしも高い生産性につながるわけではありません。
「9割捨てる」というドイツ式思考法
本質に集中するための「捨てる」技術
ドイツ人の効率性の秘密は、「捨てる」ことにあります。
著者は本書で、時間管理においても「9割捨てる」という考え方を紹介しています。
具体的には以下のものを「捨てる」ことを推奨しています。
- 緊急ではないメールへの即時対応
- 成果に直結しない会議
- 他人の期待に応えるだけの仕事
- 完璧主義への固執
- 無駄な社交辞令
パレートの法則を徹底的に活用する
著者は、ドイツ人が「パレートの法則(80:20の法則)」を実践していると指摘しています。
つまり、全体の成果の8割は、投入する努力の2割から生まれるという考え方です。
本書では、タスクリストから「重要かつ緊急」な事項だけを抽出し、それに集中するドイツ式タイムマネジメント術が紹介されています。
メリハリのある働き方と休み方
「フェイエラーベント」という概念
ドイツには「フェイエラーベント」という、仕事と私生活の明確な区切りを表す概念があります。
著者によれば、ドイツ人は勤務時間中は集中して働き、終業後は完全にオフモードに切り替えます。
この習慣により、次の日の仕事の効率が上がるという好循環が生まれるのです。
日本人が見習うべき点として、「休む時間」も「仕事の時間」と同様に重要視する姿勢が挙げられています。
休暇を「投資」と考える発想
本書によると、ドイツ人は年間平均30日の有給休暇を取得しています。
対して日本人の有給取得率は約50%にとどまっています。
著者は、ドイツ人が休暇を「時間の無駄遣い」ではなく「自分への投資」と捉えていると分析しています。
質の高い休暇が、その後の生産性向上につながるという考え方です。
時間を制する「ノー」の力
断る勇気が生み出す余白
著者によれば、ドイツ人は不必要な仕事や依頼に対して「ノー」と言うことをためらいません。
これは単なる冷淡さではなく、限られた時間を大切にする姿勢から来ています。
- ・周囲との調和を乱すことへの恐れ
- ・断ることによる人間関係の悪化への不安
- ・「忙しさ」を美徳とする文化的背景
効果的な断り方のテクニック
ドイツ式の上手な断り方として、以下のポイントが紹介されています。
- 明確かつ簡潔に断る
- 理由は必要最低限にとどめる
- 代替案を提示する
- 感情に訴えず事実を述べる
- 一度断ったら覆さない
時間を生み出す習慣と仕組み
「システム化」によるルーティン確立
著者によれば、ドイツ人は日常的な作業を「システム化」することで時間を創出しています。
例えば、週の食事メニューを決めておく、服のコーディネートをパターン化するなどです。
本書では、日々の小さな決断にかかる時間を削減することで、重要な意思決定に集中できると説明されています。
デジタルツールの効果的活用法
ドイツ人はデジタルツールを効率化の道具として積極的に活用しています。
- タスク管理アプリで優先順位を可視化
- カレンダーアプリでタイムブロッキングを実践
- メール処理の時間を1日2回に限定
- オンライン会議のルールを明確化
- デジタルデトックスの時間を設ける
日本人が学ぶべきドイツ式時間管理のポイント
本書「9割捨てて成果と自由を手に入れる ドイツ人の時間の使い方」は、ドイツ人の時間に対する考え方を学び、日本人が自分らしい生活と仕事の両立を実現するためのガイドブックです。
著者の松居温子氏は、日独の文化比較を通じて、私たちが「忙しさ」から解放され、本当に価値あることに時間を使うためのヒントを提供しています。
- 「長時間労働」より「集中と効率」を重視する
- 成果に直結しない活動は思い切って「捨てる」
- 仕事とプライベートの境界を明確にする
- 自分の時間を守るために「ノー」と言う勇気を持つ
- 日常をシステム化して意思決定の負担を減らす
- 休暇を「時間の無駄」ではなく「自分への投資」と捉える
現代日本の働き方改革が進む中、このドイツ式の考え方は多くの示唆を与えてくれます。
時間は有限であり、その使い方が人生の質を決めるという本書のメッセージは、すべての読者の心に響くことでしょう。