吉田幸弘氏著「仕事が速いリーダー 仕事に追われるリーダーの時間の使い方」は、日本企業のミドルマネジメント層が抱える時間管理の課題に焦点を当てた実践的なビジネス書です。
著者の吉田氏は、一部上場企業の管理職を経て独立し、ビジネスパーソン向けの研修講師として活躍しています。
本書では、リーダーが陥りがちな「忙しさの罠」から脱却し、本来の役割を果たすための具体的な時間管理術と思考法が解説されています。
日々の業務に追われるリーダーに対し、「やるべきことを明確にする」「時間の使い方を変える」という視点から具体的な解決策を提示しています。
仕事に追われるリーダーの現状と問題点
「プレイングマネジャー」の時間管理課題
現代のビジネスリーダーの多くは「プレイングマネジャー」として、プレイヤー業務とマネジメント業務の両立に苦しんでいます。
本書によれば、日本の管理職の約70%が「時間が足りない」と感じているというデータがあります。
特に問題なのは、マネジメント業務よりもプレイヤー業務に時間を割きがちな点です。
「忙しさの罠」にはまるメカニズム
著者は「忙しさの罠」に陥るリーダーの特徴として以下の点を指摘しています
- 「自分でやった方が早い」という思考パターン
- 部下への仕事の任せ方が不明確
- 時間の使い方に優先順位がない
- マネジメント業務の重要性を過小評価している
こうした状況では、短期的な成果は出せても、チーム全体の生産性向上は見込めません。
リーダーに求められる時間管理の基本原則
「時間の4象限」で優先順位を明確化
著者は、スティーブン・コヴィーの「第7の習慣」で紹介された時間管理マトリクスを応用し、リーダーの業務を4つに分類することを推奨しています。
- 重要かつ緊急(危機対応など)
- 重要だが緊急でない(戦略立案、部下育成など)
- 緊急だが重要でない(一部の会議、割り込み業務など)
- 緊急でも重要でもない(無駄な雑談、意味のない作業など)
リーダーは特に「重要だが緊急でない」業務に時間を確保すべきだと著者は強調しています。
「マネジメント時間」の確保と防衛
本書では、1日の業務時間の20%以上を「マネジメント時間」として確保することを推奨しています。
- 週に1回、1時間の「思考の時間」を設ける
- 1日15分の「チーム状況確認」の習慣をつける
- 部下との1on1ミーティングを定期的に実施する
これらの時間を「聖域化」し、どんなに忙しくても削らない覚悟が必要だと著者は述べています。
リーダーの仕事を加速させる7つの習慣
「捨てる・減らす・任せる」の原則
著者は、リーダーが自分の時間を創出するための3原則を示しています。
- 捨てる:本当に必要のない業務は思い切って廃止する
- 減らす:頻度や時間を削減できるものを見直す
- 任せる:部下に権限委譲できる業務を特定する
特に「任せる」については、部下の成長機会を奪わないために重要だと指摘しています。
「タスク細分化」で部下への委譲を促進
本書では、タスクを委譲する際の具体的なステップが紹介されています:
- 大きなタスクを小さな単位に分解する
- 部下のスキルレベルに合わせて委譲するタスクを選定する
- 最初は「やり方」を具体的に指示する
- 段階的に「結果責任」を移行していく
このアプローチにより、部下の能力に関わらず適切な業務委譲が可能になります。
チーム全体の生産性を高める仕組み作り
「見える化」によるチームマネジメント
著者は、チーム全体の業務効率を高めるために「見える化」の重要性を説いています。
- タスクボードやガントチャートによる進捗管理
- チームの時間の使い方の可視化
- 会議の目的と成果物の明確化
これにより、無駄な調整業務が減少し、チーム全体の生産性が向上します。
「ノー残業デー」から「ノー残業」への移行
本書では、「早く帰る」ことを目的化するのではなく、「限られた時間で成果を出す」ための工夫について言及しています:
- 17時以降の会議を禁止する
- 朝の時間を有効活用する「朝活」の推奨
- 時間当たりの生産性を評価基準に組み込む
こうした取り組みにより、<u>時間制約がチームの創意工夫を引き出す</u>結果につながります。
仕事が速いリーダーになるための核心
本書の要点は、リーダーが「自分の時間をどう使うか」という視点から「チームの時間をどう最適化するか」という視点へと転換することの重要性です。
マネジメント業務を「本業」と捉え、時間を確保する
部下への委譲を通じて、チーム全体の成長を促す
「忙しさ」と「生産性」は別物であることを認識する
長期的な視点で「重要だが緊急でない」業務に投資する
著者は「最高のリーダーの下では、チームメンバーが自分の力で成果を出している」と述べ、真のリーダーシップとは自分がいなくてもチームが機能する状態を作ることだと結論づけています。
本書は、日々の業務に追われるリーダーに対して、具体的かつ実践的なアドバイスを提供する一冊として、多くのビジネスパーソンに読まれるべき価値があります。
リーダーが第2象限に時間を確保できているかが成功の鍵となります。