山﨑圭一氏による「世界史と日本史は同時に学べ!」は、歴史教育に新たな視点をもたらす意欲作です。
著者は多摩大学経営情報学部教授であり、経済史や開発経済学を専門としています。
本書は従来の分断された歴史学習法を見直し、日本史と世界史を同時並行で学ぶことの重要性と効果を説いています。
歴史を「点」ではなく「線」でつなぎ、さらに「面」として捉えることで、複雑な歴史の流れを立体的に理解できるようになると提案しています。
歴史学習の新たなアプローチ
なぜ日本史と世界史を分けて学ぶのか
本書の出発点は明快です。「なぜ私たちは日本史と世界史を分けて学んでいるのか」という問いかけです。
著者によれば、この区分は明治時代の学制に端を発しています。
当時の国家形成の過程で、国民意識を高めるために日本史が重視されました。
- 日本と世界の出来事の関連性が見えにくい
- 時代の流れを全体的に把握しづらい
- 暗記科目としての印象が強まる
著者は「歴史は本来、分断されたものではない」と強調しています。
歴史を「同時代史」として学ぶ価値
例えば、鎌倉幕府成立(1192年)と同時期の世界では、十字軍の遠征やイスラム世界の拡大が進んでいました。
このような同時代の視点を持つことで、歴史理解が深まります。
- ・同じ時代に日本と世界で何が起きていたかを把握する
- ・出来事の因果関係を国境を越えて理解する
- ・歴史の流れを有機的に捉える
本書の画期的な時代区分
7つの時代区分による整理
著者は歴史を7つの大きな時代に区分しています。
- 古代文明の誕生(〜紀元前4世紀)
- 古代帝国の時代(紀元前3世紀〜3世紀)
- 古代帝国の分裂と中世への移行(4〜8世紀)
- 中世の形成と発展(9〜15世紀)
- 近世への移行期(16〜18世紀)
- 近代の成立と展開(19世紀〜20世紀前半)
- 現代世界の形成(20世紀後半〜)
この区分は、日本と世界の歴史を同じ枠組みで捉えることができる点が画期的です。
「連動する歴史」の具体例
本書では多くの具体例を挙げながら、日本と世界の歴史が連動していることを示しています。
- 鎖国時代の日本も、オランダを通じて世界の情報を入手していた
- 明治維新は、西洋の産業革命や帝国主義の世界的潮流と密接に関連している
- 戦国時代は、東アジアの国際関係の変動と連動していた
著者は「日本の歴史は決して孤立していない」ことを豊富な事例で説明しています。
歴史学習の実践的方法
年表の新しい使い方
本書の特徴の一つは、年表の革新的な活用法です。
- 日本と世界の出来事を同じ年表に配置する
- 色分けや記号を使って関連性を視覚化する
- 「なぜその時代にそれが起きたのか」を考える習慣をつける
著者は「年表は暗記のためではなく、思考のためのツール」だと主張しています。
地図を活用した空間的理解
歴史の理解には時間軸だけでなく、空間的把握も重要です。
- 同時代の世界地図を見比べる
- 交易路や文化の伝播経路を確認する
- 地理的条件が歴史に与えた影響を考察する
教育現場への提言
学校教育における応用
著者は教育現場への具体的な提言も行っています。
- 日本史と世界史の教科を統合したカリキュラム開発
- 共通テーマによる横断的学習の推進
- デジタル教材を活用した時空間を超えた学習体験の創出
これらの提言は、2022年度から始まった高校の新学習指導要領における「歴史総合」の理念とも合致しています。
自学自習への応用
一般読者向けにも実践的なアドバイスが満載です。
- 興味のある時代の日本と世界の出来事を並べてみる
- 映画や小説などの文化作品を通じて同時代の雰囲気を感じる
- 博物館や史跡訪問を通じて、世界的文脈での位置づけを考える
著者は「歴史学習は生涯にわたる知的冒険」だと励ましています。
本書のポイント
本書を読むことで、歴史が単なる過去の事実の集積ではなく、現代を理解し未来を展望するための重要な知的基盤であることに気づかされるでしょう。
歴史を学ぶ楽しさを再発見したい方、教育に携わる方、そして「なぜ歴史を学ぶのか」という問いに新たな答えを求めている方に、ぜひ手に取っていただきたい一冊です。
- 従来の分断された歴史観を打破する新鮮な視点
- 複雑な歴史の流れを整理する明快な時代区分
- 具体例が豊富で実践的な学習法の提案
- 専門家でなくても理解できる平易な解説
- 歴史を「暗記科目」から「思考科目」へと転換する方法論