組織・リーダーシップ・経営

SHIFT解剖 究極の人的資本経営

飯山辰之介著「SHIFT解剖 究極の人的資本経営」は、IT業界で急成長を遂げたSHIFT社の人材戦略に焦点を当てたビジネス書です。

著者はSHIFT社の取締役であり、同社の人事・組織戦略を牽引してきました。

本書では、創業以来20年以上にわたり年平均成長率30%を維持し、時価総額5,000億円を超える企業へと成長したSHIFTの「人的資本経営」の全貌が解き明かされています。

特に注目すべきは、未経験者採用を主軸とした独自の人材戦略と、それを支える教育システムです。

人材不足が叫ばれるIT業界において、SHIFT社がいかにして人材の「質」と「量」の両立を実現したのか、その秘密が詳細に記されています。

SHIFT成長の軌跡と人的資本の位置づけ

成長の数字が語る人的資本の重要性

本書の冒頭では、SHIFT社の驚異的な成長の軌跡が数字とともに紹介されています。

2005年の創業から、売上高は年平均30%以上で成長し続けています。

特に2014年の上場以降、時価総額は100倍以上に拡大しました。

この成長を支えてきたのが「人的資本経営」です。

著者によれば、SHIFT社では「人」こそが最大の資本と位置づけています。

社員数は2022年時点で約6,000人、そのうち約80%が未経験からの採用者だというデータが示されています。

人的資本経営とは何か

著者は人的資本経営を「人材を単なるコストではなく、将来のリターンを生み出す投資対象として捉える経営思想」と定義しています。

SHIFT社ではこの考え方を創業当初から徹底してきました。

SHIFT社の特徴
  • 売上高に対する人材育成投資比率が業界平均の3倍
  • 社員一人当たりの年間研修時間が約120時間
  • 社内認定資格制度の充実(100種類以上)
  • 離職率が業界平均の半分以下(年間約5%)

人的資本経営を実践する上でのSHIFT社の特徴として、以下の点が挙げられています。

  • 売上高に対する人材育成投資比率が業界平均の3倍
  • 社員一人当たりの年間研修時間が約120時間
  • 社内認定資格制度の充実(100種類以上)
  • 離職率が業界平均の半分以下(年間約5%)

著者は「人的資本経営の成否は、投資効率の高さにかかっている」と強調しています。

SHIFT社の場合、一人当たり売上高が入社後3年で平均2.5倍になるという驚異的な数字が示されています。

未経験者採用という逆転の発想

「100人採用」から「100倍採用」へ

本書の中核となる考え方の一つが「未経験者採用」です。

SHIFT社では創業初期から、IT業界経験者ではなく未経験者を積極的に採用する戦略をとってきました。

SHIFT社の採用戦略
  • IT人材の慢性的な不足(日本全体で30万人以上の不足)
  • 経験者の採用コストの高騰
  • 採用後のカルチャーフィットの課題

特筆すべきは採用数の規模です。SHIFT社では2022年度に約1,200名の新卒・中途採用を実施し、そのうち約85%が未経験者だったというデータが示されています。

これは業界内でも突出した数字です。

未経験者採用の成功要因

なぜSHIFT社は未経験者採用で成功できたのか。

著者はその成功要因を詳細に解説しています。

まず重視しているのは「ポテンシャル採用」です。

具体的には以下の3つの特性を重視しているとのことです。

  • 学習意欲と成長志向性
  • 論理的思考力と問題解決力
  • チームワークとコミュニケーション力

選考プロセスでは、これらの特性を見極めるための独自のアセスメントを実施しています。

その結果、選考通過率は約5%という厳選採用となっています。

また、未経験者が活躍できる職務設計も重要なポイントです。

SHIFT社ではシステムテストという業務を細分化し、未経験者でも短期間で習得できる業務から段階的にスキルアップできる仕組みを構築しています。

SHIFT式人材育成システムの全貌

「育成型」組織の仕組み

SHIFT社の強みの中核をなすのが「SHIFT式人材育成システム」です。

著者はこのシステムを「投資対効果を最大化するための科学的アプローチ」と表現しています。

特筆すべきは、年間約120時間の研修時間を確保しながらも、売上高人件費率を業界平均以下に抑えている点です。

これは研修効果の徹底的な測定と改善によるものだと著者は説明しています。

「13段階」のキャリアパスと認定制度

SHIFT社では独自の「13段階」キャリアパスを設定しています。

これは一般的な等級制度と異なり、より細かく設定された成長ステップです。

キャリアパスの特徴
  • 各段階で求められるスキルと行動が明確
  • 6カ月ごとの評価・昇格機会
  • 成果だけでなく成長プロセスも評価
  • 「見える化」された成長実感

このシステムにより、未経験入社者の約70%が3年以内に中級レベル(5段階以上)に到達しているというデータが示されています。

また、13段階を完全に習得した「エキスパート」は全社員の約3%に限られるという希少性も強調されています。

エンゲージメント向上の仕掛け

離職率を抑える「5つの柱」

SHIFT社のもう一つの特徴は、IT業界平均(約15%)を大きく下回る年間離職率(約5%)です。

著者はこの低離職率を支える「5つの柱」について詳しく解説しています。

5つの施策
  • 成長実感を与える細かなキャリアステップ
  • 公平・透明性の高い評価・報酬制度
  • 多様な挑戦機会の提供
  • 「人間関係の質」を高めるコミュニティ活動
  • 働き方の柔軟性と福利厚生の充実

特に注目すべきは「コミュニティ活動」です。

SHIFT社では100以上の社内コミュニティが存在し、社員の約70%が何らかのコミュニティに所属しているというデータが示されています。

エンゲージメントサーベイの活用法

SHIFT社では四半期ごとにエンゲージメントサーベイを実施しています。

その結果、エンゲージメントスコアが業界平均を20ポイント以上上回る高水準で推移しているというデータが示されています。

著者は特に以下の点を重視していると述べています。

  • リアルタイムの「組織の健康診断」
  • 管理職のマネジメント改善指標
  • 離職予測のための先行指標
  • 施策効果の定量的測定

エンゲージメントスコアと業績には強い相関関係があり、スコアが高いチームほど生産性が高いという分析結果が紹介されています。

具体的には、エンゲージメントスコアが平均より10ポイント高いチームは、生産性が約15%高いというデータが示されています。

「人的資本経営」の未来形

「SX(SHIFT Transformation)」の展開

本書の後半では、SHIFT社が自社のノウハウを他社に提供する「SX(SHIFT Transformation)」の取り組みが紹介されています。

これは、SHIFT社の人的資本経営の手法を他社に展開するコンサルティングサービスです。

SXプログラムの要素
  • 人材の採用・育成メソッドの移植
  • 評価制度・報酬制度の設計支援
  • 組織・カルチャー変革の伴走支援
  • 人的資本指標の設計と活用

著者によれば、SXプログラムを導入した企業では、平均して以下のような成果が出ているとのことです。

  • エンゲージメントスコアが約15ポイント向上
  • 離職率が約30%低減
  • 人材育成の効率が約25%向上

人的資本開示の意義と実践

最後に、著者は近年注目される「人的資本開示」の意義と実践について解説しています。

SHIFT社は早くから人的資本情報の積極的な開示に取り組んできました。

人的資本開示で特に重視している指標として、以下が挙げられています。

人的資本開示で特に重視している指標
  • 人材育成投資額と投資効率
  • スキル習得率と専門性分布
  • エンゲージメントスコアの推移
  • 多様性指標とインクルージョン度

著者は「人的資本開示は単なるコンプライアンスではなく、企業価値向上のための戦略的ツール」と強調しています。

実際、SHIFT社の投資家との対話では、財務情報と並んで人的資本情報が重視されているというエピソードが紹介されています。

他社への応用と実践のポイント

規模・業種別の応用ポイント

本書の終盤では、SHIFT社の人的資本経営を他社が応用する際のポイントが解説されています。

著者は企業の規模や業種によって、適用方法を変える必要があると説いています。

具体的には以下のような応用ポイントが示されています。

  • スタートアップ:採用・育成の基盤構築に注力
  • 中堅企業:段階的なキャリアパスの構築
  • 大企業:既存制度とのハイブリッド設計
  • 製造業:OJTとOff-JTの最適バランスの設計
  • サービス業:顧客接点とエンゲージメントの連動

著者は「完全なコピーではなく、自社に合わせたカスタマイズが重要」と繰り返し強調しています。

SHIFT社のアプローチを取り入れた企業の成功事例も複数紹介されています。

実装ステップと成功のための条件

最後に、人的資本経営を実装するための具体的なステップと成功条件が解説されています。

4つのフェーズ
  1. 現状診断と課題の可視化
  2. 人的資本戦略の策定
  3. 制度・仕組みの設計と導入
  4. 定着と継続的改善

成功のための条件としては、以下の5点が強調されています。

  • 経営トップのコミットメントと一貫性
  • 中長期的な投資視点(最低3年)
  • データドリブンなPDCAサイクル
  • 現場マネジャーの巻き込みと育成
  • 社員への透明な情報開示と対話

著者はこれらの条件がそろっていれば、どのような企業でも人的資本経営の恩恵を受けられると結論づけています。

本書のポイント

「SHIFT解剖 究極の人的資本経営」は、人材を「コスト」ではなく「投資対象」として捉え、その投資効率を最大化するための実践的方法論を提示した一冊です。

本書のポイント
  • 人的資本経営こそが持続的な企業成長の原動力となる
  • 「未経験者採用」という逆転の発想で人材不足を解消
  • 科学的アプローチによる効率的な人材育成システム
  • 細分化されたキャリアパスによる成長実感の創出
  • エンゲージメント向上と離職率低減の具体的方法論
  • 人的資本情報の戦略的開示による企業価値向上

SHIFT社の事例は、人材不足や人材育成に悩むあらゆる企業にとって貴重な参考事例となります

。特に「人を育てる」ことで競争優位性を確立したいと考える経営者や人事責任者とって、本書は実践的なノウハウの宝庫といえるでしょう。

著者は数値データと具体的な施策を豊富に紹介しており、単なる理念や理想論ではなく、実際に機能する人的資本経営の青写真を示しています。

特に印象的なのは、「量」と「質」を両立させる人材戦略です。

多くの企業が「質か量か」の二者択一に悩む中、SHIFT社は独自の方法論でその両方を実現しています。

また、本書の価値は個別の手法やテクニックだけでなく、「人材への投資効率」という観点から経営全体を再構築する思想にあります。

人的資本を企業価値の中核に据え、それを可視化・最大化するための体系的なアプローチは、今後のビジネス環境において大きな示唆を与えてくれるものです。

人材獲得競争が激化し、働き方や価値観が多様化する現代において、本書は人的資本経営の「教科書」として多くの読者に価値ある洞察を提供してくれるでしょう。