経済・社会

保身の経済学

森永卓郎氏(1957-2025年)は獨協大学教授、経済アナリストとして活躍した経済学者です。

専門はマクロ経済・労働経済・教育計画などで、テレビ・ラジオでも活躍しました。本書『保身の経済学』は森永卓郎シリーズの最終巻として、死の数日前まで書き続けた遺作です。

2024年中はなんとか小康状態を保っていたがんが、腹部に転移していることが確認された中で執筆された本書は、日本社会の根深い問題に迫った力作です。

著者は長年にわたり、日本経済の構造的問題について鋭い分析を行ってきました。

累計75万部を突破した森永卓郎シリーズの集大成として、本書では日本社会に蔓延する「保身」という病理に焦点を当てています。

著:森永 卓郎
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保身文化が招く日本社会の停滞

保身の定義と現状認識

本質を追究するのではなく、目先の問題が発生しないようトラブルの回避に専念する。それこそが保身だと森永氏は定義します。

この保身の文化は日本の職場や組織を硬直化させています。

日本社会に広がる保身の文化が職場や組織を硬直化させ、生産性を低下させていると指摘されています。

これは単なる個人の問題ではありません。

システム全体の問題として捉える必要があります。

組織への影響

保身文化の影響は以下の点で明確に現れています。

  • 新しい取り組みへの消極性
  • 責任回避による意思決定の遅れ
  • イノベーション創出の阻害
  • 長期的視点の欠如

経済政策への提言と分析

消費税問題への言及

この『保身の経済学』にも森永卓郎が昔から主張している消費税減税について説明があることが確認できます。

1997年4月の消費税増税以降デフレに陥り生産性が低下してしまった日本経済には消費税減税が必須だと主張されています。

具体的な時期として、以下のタイミングが重要視されています。

  • 1997年4月: 消費税増税によるデフレ開始
  • 2014年4月: 第二次消費税増税
  • 2019年10月: 第三次消費税増税

アベノミクスへの評価

森永卓郎は故安倍晋三が実施していたアベノミクスを肯定的に評価していることが示されています。

金融緩和については肯定的な評価だが、2014年4月と2019年10月に実施された消費税増税については批判的な立場を取られています。

社会変革への4つの価値転換

新しい社会モデルの提示

氏が提唱した4つの価値転換──「グローバルからローカルへ」「大規模から小規模へ」「中央集権から地方分権へ」「大都市一極集中から地方分散へ」です。

これらは日本社会再設計の核心だと位置づけられています。

地方分散型社会の重要性

これらの価値転換は単なる理想論ではありません。

以下の観点から実現可能性があります。

  • テクノロジーの進歩による地理的制約の緩和
  • 働き方の多様化
  • 持続可能性への社会的関心の高まり
  • 地域経済の活性化による新たな雇用創出

遺作としての意義と読者への警鐘

生命をかけた最後のメッセージ

死の数日前まで書き続けた遺作として、本書には著者の強い想いが込められています。

がんと闘いながらも、日本社会の未来を憂い続けた姿勢は読者に深い感動を与えます。

実践的な行動指針

タイトルにある「われわれはどう行動すべきか?」という問いに対して、著者は明確な方向性を示しています。

保身から脱却し、本質的な問題解決に取り組む重要性を説いています。

個人レベルでできる取り組み

  • リスクを恐れない挑戦
  • 長期的視点での判断
  • 地域コミュニティへの積極的参加
  • 本質的な問題提起の実践

おわりに

『保身の経済学』は、森永卓郎氏の経済学者としての集大成であると同時に、日本社会への愛情に満ちた警鐘でもあります。

多くの読者に1997年4月の消費税増税以降デフレに陥り生産性が低下してしまった日本経済には消費税減税が必須伝われば、この本の存在意義は十分だと著者は述べています。

本書を読むことで、読者は保身という罠から抜け出し、真の問題解決に向けた行動を起こす勇気を得ることができるでしょう。

現代日本が直面する課題に対して、具体的で実践可能な解決策が示されています。

著:森永 卓郎
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まとめ

  • 本書は単なる経済書ではなく、日本社会の未来を真剣に考える全ての人にとって必読の書です。
本書のポイント
  • 保身文化の問題提起
  •  日本社会の硬直化の根本原因を明確化
  • 経済政策への具体的提言
  •  消費税減税の必要性を数値を交えて説明
  • 4つの価値転換
  •  社会変革のための明確なロードマップを提示
  • 実践的行動指針
  •  個人レベルでできる具体的な取り組みを明示
  • 遺作としての重み
  •  生命をかけて伝えたかった日本への想い