都築辰弥氏の「人生後半の働き方戦略 幸福年収700万円を続けるために」は、40代以降のキャリア戦略を提示する一冊です。
著者は大手日系企業でのキャリアを経て独立し、現在はキャリアコンサルタントとして活躍しています。
本書では、人生100年時代において40〜65歳の「人生後半戦」を如何に戦略的に生き抜くかについて、データと実体験に基づいた具体的なアプローチを提案しています。
特に「幸福年収700万円」という具体的な数字を掲げ、それを維持するための実践的な方法論が展開されています。
「幸福年収700万円」の真意
なぜ700万円なのか
本書の核心は「幸福年収700万円」という概念です。
著者によると、日本人の幸福度は年収700万円前後でピークに達し、それ以上の収入増加では幸福度はさほど向上しないというデータがあります。
この数字は著者の経験則だけでなく、経済学的な研究結果からも導き出されています。
- 年収400万円以下では生活の不安から幸福度が低い傾向
- 年収700万円程度で基本的な生活の安定と余裕が両立
- 年収1,000万円を超えても幸福度の向上率は鈍化
- 物価上昇を考慮しても、現在の日本では700万円が適正値
人生後半戦の経済的ハードル
40代以降の人生では、子どもの教育費や親の介護費用など、特有の経済的負担が発生します。
著者は現実的な数字を挙げながら、こうした負担に対応できる収入水準として700万円を位置づけています。
- 子ども一人の大学進学で約1,000万円の費用
- 親の介護で年間約200〜300万円の出費が発生する可能性
- 自身の老後資金として2,000〜3,000万円の蓄えが必要
人生後半の「市場価値」を高める戦略
キャリア資産の棚卸しと再投資
著者は、40代以降は自身の「市場価値」を客観的に評価し、戦略的に高めていく必要があると説きます。
そのために重要なのが「キャリア資産の棚卸し」です。
- 自分の強み・専門性の明確化
- 業界内での評価と外部市場での評価の差を認識する
- 自身のスキルや経験を「資産」として客観視する
特に、長年同じ企業で働いていた人は、外部での市場価値を過小評価しがちだと指摘しています。
著者はキャリア資産を「可視化」し、不足している部分への「投資」を推奨しています。
複数の収入源を確保する重要性
本書では、人生後半戦では単一の収入源に依存することのリスクを強調しています。
著者自身の経験も踏まえて、複数の収入源(マルチストリーム)の構築が重要だと説いています。

著者のデータによれば、収入源が3つ以上ある人は、一つの収入源に依存している人と比較して、収入の安定性が約2倍高いとされています。
デジタル時代のキャリア戦略
業界知識とデジタルスキルの融合
著者は、人生後半戦でも価値を発揮し続けるには、自身の専門性や業界知識と新しいデジタルスキルを掛け合わせることが効果的だと提案しています。
- 業界知識×データ分析能力
- 専門スキル×オンラインマーケティング
- 人脈×デジタルコミュニケーション能力
これらの組み合わせは「ハイブリッド人材」として差別化要素になるとされています。
調査によれば、このような複合スキルを持つ人材は、単一スキルの人材と比較して年収が平均20%高いというデータも紹介されています。
デジタルプレゼンスの構築
人生後半戦では、自身の価値を広く発信するための「デジタルプレゼンス」の構築が重要だと著者は主張します。
- LinkedIn等のプロフェッショナルSNSでの存在感確立
- 専門分野での情報発信(ブログ、メルマガ等)
- オンラインコミュニティへの積極的な参加
- デジタルポートフォリオの作成
著者の調査では、LinkedIn上で定期的に発信している40代以上の人材は、転職・副業の機会が約3倍多いという結果が示されています。
幸福な働き方のための4つの要素
仕事の「質」にこだわる
収入だけでなく、仕事の「質」が幸福度に大きく影響すると著者は指摘します。
- 自律性: 自分で仕事の進め方を決められること
- 成長感: 新しいことを学び続けられること
- 貢献感: 誰かの役に立っていると実感できること
- 適切な負荷: 能力を発揮できる適度なチャレンジがあること
著者の調査では、年収500万円でもこれらの要素が満たされている人は、年収1,000万円でもこれらが欠けている人より幸福度が高いというデータが示されています。
ワークライフインテグレーション
本書では従来の「ワークライフバランス」に代わる概念として「ワークライフインテグレーション」を提案しています。
これは仕事と私生活を分離するのではなく、調和させる考え方です。
- 時間的柔軟性を確保する働き方
- 地理的制約から解放された働き方
- 趣味や関心事を仕事に活かす
- 家族との時間を犠牲にしない仕事設計
著者は実際に40〜60代の「幸福な働き方」を実現している人々を調査し、その多くが「インテグレーション」型の働き方を採用していることを明らかにしています。
実践的なキャリア移行戦略
段階的なキャリアシフト
人生後半戦で大きな転換を図る場合、一足飛びではなく段階的に移行することが成功率を高めると著者は提言しています。
- Phase 1: 現職のまま新スキル習得・ネットワーク構築(1〜2年)
- Phase 2: 副業・兼業で実績構築(1〜3年)
- Phase 3: 本格移行(転職・独立)
この段階的アプローチを取った人は、一度に大きな転換を図った人と比較して、3年後の年収維持率が約1.8倍高いというデータが示されています。
人脈資産の活用と拡大
著者は人生後半戦では「何を知っているか」より「誰を知っているか」が重要になると指摘しています。
- 業界内の縦のつながりを横のつながりに拡張する
- 異業種交流の場に積極的に参加する
- オンラインコミュニティでの関係構築
- 自分が持つ知識・経験をシェアすることで信頼を構築
著者の調査によれば、40代以降の転職・独立成功者の約70%が「人脈からの紹介」がきっかけだったという結果も紹介されています。
人生後半戦を戦略的に生きる
本書の核心は、人生100年時代において40代以降を「後半戦」と位置づけ、戦略的に取り組むことの重要性です。
著者が提唱する「幸福年収700万円」は単なる金額ではなく、経済的余裕と充実した生活を両立させるための目安となっています。
- 「幸福年収700万円」を目標に据えた現実的なキャリア戦略
- 自身の市場価値を客観的に評価し高める方法
- 複数の収入源を構築することでリスクを分散する考え方
- デジタルスキルと専門性を掛け合わせた差別化戦略
- 仕事の質と幸福度の関係性
- 段階的なキャリア移行によるリスク軽減
本書は、これからの20〜30年という長い「人生後半戦」を如何に充実させ、経済的にも精神的にも豊かに生きるかという問いに、具体的で実践的な答えを提示しています。
単なる成功法則ではなく、「幸福」という観点から働き方を見直す視点は、多くの40代以降の読者にとって新たな指針となるでしょう。