上出遼平氏は元ボストン・コンサルティング・グループのコンサルタントで、現在は複数のスタートアップの創業や経営に携わる実業家です。
本書「ありえない仕事術 正しい"正義"の使い方」は、多くのビジネスパーソンが陥りがちな「正義の罠」から抜け出し、本当の意味で価値ある仕事をするための思考法を提案しています。
自己満足の「小さな正義」に囚われず、より大きな視点で物事を捉え、真に価値ある成果を出すための考え方が詰まった一冊です。
「正義の罠」が仕事の生産性を下げる
私たちはなぜ「正義」に囚われるのか
「正しいことをしている」という感覚は、人間にとって大きな安心感をもたらします。
しかし著者は、この「正義感」こそが仕事の生産性を下げる最大の要因だと指摘しています。
上出氏によれば、多くのビジネスパーソンは「正しさ」にこだわるあまり、本来の目的を見失ってしまうのです。
たとえば、「資料は完璧に作るべき」「ルールは守るべき」「上司の言うことは聞くべき」といった「べき論」に囚われる人が多いと著者は言います。
これらの「小さな正義」に囚われることで、本来の目的である「価値を生み出す」ことがおろそかになるのです。
「正義の罠」の具体例
著者が挙げる「正義の罠」の具体例は以下の通りです。
- 「完璧な資料」を作ることに時間を費やし、意思決定が遅れる
- 「前例踏襲」という名の責任回避
- 「空気を読む」ことを優先し、本質的な議論を避ける
- 「忙しさ」を美徳とし、効率化を怠る
これらはすべて「小さな正義」であり、真の価値創出を妨げているとされています。
ありえない仕事術の基本原則
「なぜ」を問い続ける習慣
著者は「なぜそれをやるのか」を常に問い続けることの重要性を強調しています。
目の前の作業に没頭する前に、その目的を明確にすることで、無駄な労力を省くことができます。
上出氏によれば、多くの会社では「なぜ」が明確でないまま業務が進められています。
例えば週次の会議や月次レポートなど、「やるべきだから」という理由だけで続けられている業務が多いのです。
「なぜ」を5回繰り返して問うことで、本当の目的にたどり着くことができます。
この習慣を身につけるだけで、仕事の生産性は飛躍的に向上するでしょう。
「誰のため」を常に意識する
著者が提唱する「ありえない仕事術」の核心は、「誰のために仕事をしているのか」を常に意識することです。
自分のため、上司のため、会社のためではなく、最終的には顧客や社会のために価値を提供することが仕事の本質だとしています。
この視点を持つことで、「小さな正義」から解放され、より大きな価値を生み出すことに集中できるようになります。
著者は自身の経験から、以下のポイントを挙げています。
- 会議の目的は意思決定であり、情報共有ではない
- 資料の目的は相手の理解を助けることであり、自己満足ではない
- 報告の目的は次のアクションを促すことであり、経過説明ではない
「ありえない」時間管理法
「重要だが緊急でないこと」に時間を使う
著者は、アイゼンハワーのマトリクスを引用しながら、「重要だが緊急でないこと」に時間を使うことの重要性を説いています。
多くの人は「緊急だが重要でないこと」に時間を取られがちですが、本当に価値を生み出すのは「重要だが緊急でないこと」なのです。
著者によれば、生産性の高い人は第2象限(重要だが緊急でない)に意識的に時間を割いています。
例えば、新規事業の企画、自己啓発、人間関係の構築などです。
「2時間ブロック」で集中力を最大化
著者が提唱する時間管理法の一つが「2時間ブロック」です。
人間の集中力が持続するのは約90分から120分だという研究結果に基づき、重要な仕事は2時間のブロックで集中して取り組むことを推奨しています。
- 一日の中で最も集中力が高い時間帯を特定する
- その時間帯に2時間のブロックを設定する
- その時間は電話やメール、会議などを完全にシャットアウトする
- 一つのタスクだけに集中して取り組む
著者自身もこの方法で著書を執筆し、通常なら半年かかる作業を2ヶ月で完了させたとのことです。
「正しい」コミュニケーション術
「答え」ではなく「問い」でリードする
著者は、優れたリーダーは「答え」を提示するのではなく「問い」を投げかけることでチームをリードすると説明しています。
「なぜこの施策が必要なのか」「誰のためにやっているのか」といった問いを投げかけることで、チームメンバーの思考を促し、自発的な行動を引き出すのです。
上出氏によれば、日本企業では「答え」を持っていることが評価される傾向がありますが、真のリーダーシップは適切な「問い」を投げかける能力にあります。
「伝える」より「伝わる」を重視する
コミュニケーションにおいて最も重要なのは「伝えたこと」ではなく「伝わったこと」だと著者は強調します。
自分の言いたいことを一方的に話すのではなく、相手の理解度や関心に合わせて伝え方を工夫することが重要です。
- 結論から先に伝える(PREP法の活用)
- 相手の「知りたいこと」を先読みする
- 複雑な内容は図解や例え話を使って簡略化する
- 感情に訴えかける要素を入れる
「正義」を超えたキャリア構築
「市場価値」と「自己価値」のバランス
著者は、真に充実したキャリアを構築するためには、「市場価値」と「自己価値」のバランスが重要だと説きます。
「市場価値」とは社会から求められるスキルや経験、「自己価値」とは自分自身が価値を感じる活動や領域です。
多くの人は「市場価値」だけを追求し、高い報酬や地位を得ても充実感を得られないという罠に陥ります。
一方で「自己価値」だけを追求すると、経済的な自立が難しくなる可能性があります。
著者は両者のバランスを取り、「市場価値と自己価値の重なる領域」でキャリアを構築することを推奨しています。
「小さな実験」でリスクを最小化する
キャリア構築において、著者が提案するのは「小さな実験」の積み重ねです。
いきなり大きな転職や起業ではなく、副業やプロボノ活動などを通じて、リスクを最小化しながら新しい領域に挑戦することを勧めています。
著者自身も、コンサルタントとして働きながら少しずつ起業の準備をし、リスクを最小化しながらキャリアチェンジに成功した経験を持っています。
本書のポイント
「ありえない仕事術 正しい"正義"の使い方」の核心は、「小さな正義」から解放され、真の価値創造に集中することです。
ビジネスパーソンなら誰もが陥りがちな「正義の罠」から抜け出し、本当の意味で価値ある仕事をするための思考法が詰まった本書は、仕事の生産性を飛躍的に向上させたいすべての人におすすめの一冊です。
- 「正しさ」に囚われることが、仕事の生産性を下げる最大の要因である
- 常に「なぜ」と「誰のため」を問い続けることで、本質的な価値創造に集中できる
- 「2時間ブロック」などの時間管理法で、創造的な仕事に集中する時間を確保する
- 「答え」ではなく「問い」でリードし、チームの思考力を高める
- 「市場価値」と「自己価値」のバランスを取りながらキャリアを構築する