水瀬ケンイチ氏は日本におけるインデックス投資の第一人者として知られています。
本書「彼はそれを「賢者の投資術」と言った」は、著者が25年間にわたって実践してきたインデックス投資の全貌を明かした渾身の一冊です。
米国留学時代に出会ったインデックス投資の考え方から始まり、バブル崩壊後の日本市場での実践、そして現在に至るまでの投資哲学と具体的な運用実績が詳細に綴られています。
投資初心者から上級者まで、長期的な資産形成を目指す全ての人に価値ある知見を提供する内容となっています。

インデックス投資との出会い - 「賢者の投資術」との邂逅
水瀬氏がインデックス投資と出会ったのは1990年代、米国留学中のことでした。
当時のウォール街では「効率的市場仮説」が広く受け入れられ始めていました。
この理論に基づくインデックス投資が「賢者の投資術」と呼ばれていたのです。
著者は留学先の教授から次のような言葉を贈られました。
「市場を打ち負かそうとするな。市場に乗れ」
この言葉が著者の投資人生を大きく変えることになります。
当時のアメリカでは、すでにジョン・ボーグル氏が設立したバンガード社がインデックスファンドを提供し始めていました。
帰国後、バブル崩壊直後の日本でインデックス投資を始めた著者は、周囲から「今は個別株を拾うチャンス」と言われながらも、信念を曲げることなく投資を続けました。
市場の荒波を乗り越えて - 25年間の投資実績公開
本書の最大の特徴は、著者が25年間実際に運用してきたポートフォリオの詳細なデータが公開されている点です。
バブル崩壊後の長期停滞期、ITバブルの崩壊、リーマンショック、アベノミクス相場、そしてコロナショックと、幾多の市場の荒波をどう乗り越えてきたかが克明に記されています。
特筆すべきは、著者のポートフォリオが25年間で約4.3倍になったという実績です。
同期間の日本株のみの運用と比較すると、グローバル分散投資の効果が明確に示されています。
シンプルで強靭なポートフォリオ設計
著者が25年間実践してきたポートフォリオ構築の考え方は以下の通りです。
- グローバル分散投資を基本とする
- 株式と債券のバランスを年齢に応じて調整する
- リバランスは年1回、機械的に実行する
- コストを徹底的に抑える
特に注目すべきは「年齢マイナス10」という株式比率の考え方です。
例えば40歳なら株式比率は30%程度に抑えるという保守的な運用スタイルを提唱しています。
- 先進国株式(全世界):40%
- 新興国株式:10%
- 国内債券:30%
- 先進国債券(ヘッジあり):20%
このシンプルなポートフォリオ運用で25年間一貫して運用してきたことが成功の秘訣だと著者は強調しています。
日本特有の投資環境への対応
著者は日本特有の投資環境についても詳しく解説しています。
- 超低金利環境での債券投資の難しさ
- 円という基軸通貨を持つ投資家の為替リスク
- 日本株式市場の長期低迷との向き合い方
- NISAやiDeCoなど税制優遇制度の活用法
特に日本株への投資比率については興味深い見解を示しています。
「ホームカントリーバイアス」に陥らず、日本のGDP比率(世界の約6%)程度にすることを推奨しています。
投資成功のための心理的アプローチ
本書が他の投資書と一線を画すのは、投資における心理面の重要性に多くのページを割いている点です。
著者は次のように述べています。
投資の成功は20%が知識、80%が心理である。
特に市場暴落時にパニック売りをしないための心構えとして、以下のポイントを挙げています。
- 暴落は投資のコストと考える
- ニュースや相場解説から距離を置く
- 投資日記をつけて自分の感情を客観視する
- 最悪のシナリオを想定しておく
著者自身も2008年のリーマンショック時には40%以上の含み損を抱えながらも売却せず、結果的に数年後には回復したという実体験を基に語っています。
これからの25年に向けて
最終章では、今後25年の展望について著者の見解が示されています。
人口減少、テクノロジーの進化、気候変動など、投資環境を取り巻く変化を踏まえたうえで、インデックス投資の有効性は変わらないと結論づけています。
- ESG投資の重要性の高まり
- インフレリスクへの対応
- デジタル資産の位置づけ
- 老後の資産取り崩し戦略
著者は「4%ルール」に基づく資産取り崩し戦略についても詳細に解説しており、投資の出口戦略まで見据えた総合的なアドバイスを提供しています。

本書のポイント
水瀬氏の25年にわたる投資実績と哲学が詰まった本書は、単なる投資技術書ではなく、お金との向き合い方や人生設計までを含めた総合的な「賢者の知恵」となっています。
インデックス投資を始めたい初心者から、運用に不安を感じているベテラン投資家まで、幅広い読者にとって価値ある一冊と言えるでしょう。
- 25年間の実績データに基づく説得力ある投資哲学
- 理論だけでなく、市場暴落時の心理状態も含めた実体験
- シンプルで再現性の高いポートフォリオ設計
- 日本の投資家特有の課題への具体的な対応策
- 長期的な視点で資産形成を考えるための指針