お金・投資・起業

アート・オブ・スペンディングマネー

モーガン・ハウセル氏は、世界的ベストセラー『サイコロジー・オブ・マネー』の著者として知られる金融コラムニストです。

コラボレーティブ・ファンドのパートナーとしても活動しています。

本書『アート・オブ・スペンディングマネー(The Art of Spending Money)』は、前作がお金の「貯め方・増やし方」に焦点を当てていたのに対し、お金の「使い方」に正面から向き合った続編的位置づけの一冊です。

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前作との違いと本書の立ち位置

「貯める」から「使う」への転換

前作『サイコロジー・オブ・マネー』は全世界で1,000万部以上を売り上げた大ベストセラーです。

「サイコロジー・オブ・マネー」 「サイコロジー・オブ・マネー」は、モーガン・ハウセルによる財務心理学の分野での著書であり、金銭的な成功を達成するための心理的な側面を探...

お金との心理的な付き合い方を説き、貯蓄や投資の重要性を伝えました。

本書はその続編として、「お金は使ってこそ意味がある」という問いに踏み込みます。

いくら貯めても、使い方を間違えれば幸福にはなれません。

お金を上手に使う技術こそが人生の質を決めるのです。

本書が問いかけるテーマ

ハウセル氏は本書で以下のような問いを投げかけています。

  • なぜ年収が上がっても幸福度が上がらないのか
  • なぜ人は「見栄」にお金を使ってしまうのか
  • 本当に満足できるお金の使い方とは何か
  • 「足るを知る」とは具体的にどういうことか
  • お金を使わないことが本当に正しいのか

これらの問いに対し、心理学・行動経済学の知見と豊富なエピソードで答えていきます。


お金と幸福の関係を解きほぐす

年収と幸福度の「天井」

本書でも触れられている有名な研究があります。

ノーベル賞受賞者ダニエル・カーネマンらの研究では、年収約75,000ドル(約1,100万円)を超えると幸福度の上昇は鈍化するとされていました。

一方、2023年に発表されたマシュー・キリングスワースとの共同研究では、年収が上がるほど幸福度は上がり続けるという結果も示されています。

ただし、その上昇カーブは緩やかになります。


重要なのは、「いくら稼ぐか」よりも「何に使うか」が幸福度を左右するという点です。

同じ年収でもお金の使い方次第で満足度は大きく変わります。

「経験」に使うお金は満足度が高い

本書では、物質的な消費よりも経験への支出の方が長期的な幸福をもたらすと繰り返し述べられています。

経験消費が満足度を高める理由は以下の通りです。

  • 記憶として蓄積され、時間とともに美化される
  • 人との共有ができ、関係性を深める
  • 比較されにくいため、他者との優劣を感じにくい
  • 慣れが生じにくい(物は飽きるが経験は色褪せない)
  • 自分のアイデンティティの一部になる

「見栄の消費」という罠

他人のために使うお金の無意味さ

ハウセル氏は前作でも「誰も他人の車には興味がない」と述べていました。

本書ではこのテーマをさらに深掘りしています。

高級車を買っても、周囲の人が見ているのは車であって運転者ではないのです。

見栄のための消費は、本人が期待するほどの効果を生みません。

むしろ、支出に見合わない虚しさだけが残ります。

見栄の消費に陥るパターン
  • SNS映えを意識した支出
  • 周囲との横並びを気にした住宅・車の購入
  • ステータスシンボルとしてのブランド品
  • 年収に見合った生活をしなければという思い込み

ライフスタイル・インフレーション

年収が上がると生活水準も上がる現象を「ライフスタイル・インフレーション」と呼びます。

本書ではこの現象が幸福度を押し下げる大きな要因だと指摘されています。

収入が増えた分だけ支出も増えれば、経済的な余裕は永遠に生まれません

ハウセル氏は、収入が上がっても生活水準を意図的に抑えることの重要性を説いています。


「時間」を買うという最高の投資

自由な時間が最大の贅沢

本書で特に印象的なのが、<u>お金の最も価値ある使い方は「時間を買うこと」</u>だという主張です。

通勤時間を減らすために職場の近くに住む。

家事代行を頼んで自由な時間を確保する。

こうした支出は一見贅沢に見えます。

しかし、得られた時間を大切な人との関係や自己成長に充てることで、人生全体の満足度が大きく向上します。

時間を買う支出の例
  • 職場の近くに住む(通勤時間の削減)
  • 家事代行サービスの利用
  • 時短家電への投資
  • 直行便のフライトを選ぶ
  • 外注・委託で本業に集中する

「お金はあるが時間がない」の不幸

高収入でも長時間労働に追われている人は少なくありません。

ハウセル氏は、お金を稼ぐために時間を犠牲にし過ぎると本末転倒だと警告しています。

お金は取り戻せますが、時間は二度と戻りません。


「足るを知る」の本当の意味

期待値をコントロールする

ハウセル氏は前作に引き続き、「足るを知る」ことの重要性を強調しています。

本書ではさらに踏み込み、幸福とは「現実 − 期待値」で決まるという公式を提示しています。

つまり、現実を変えなくても期待値を適正にすれば幸福度は上がります。

際限なく「もっと」を求め続ける限り、満足は永遠に訪れません。

「十分」を定義する勇気

本書では、自分にとっての「十分」を明確に定義することが強く推奨されています。

これは金額の問題ではなく、価値観の問題です。

「十分」を定義するための問い
  • 自分が本当に大切にしているものは何か
  • どのような生活が自分を最も満たすか
  • 他者からの評価を除いたら何が残るか
  • 5年後に後悔しない使い方はどれか
  • お金がなくても幸せだった瞬間はいつか

お金の使い方は「人生の技術」

正解は一つではない

ハウセル氏は本書の中で、お金の使い方に唯一の正解はないと述べています。

人それぞれ価値観も環境も異なるからです。

ただし、「自覚的に使う」ことと「無自覚に使う」ことには決定的な差があると強調しています。

自分が何にお金を使っているか、なぜそれに使っているかを意識するだけで、満足度は劇的に変わります。

前作と本書を合わせて読む価値

前作『サイコロジー・オブ・マネー』が「お金を守る哲学」だとすれば、本書は「お金を活かす哲学」です。

両方を読むことで、お金との付き合い方の全体像が見えてきます。

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本書のポイント

前作で「お金を貯めること」の意味を学んだ方にこそ読んでほしい一冊です。

「貯めたお金をどう使えば幸せになれるのか」という、誰もが直面するにもかかわらず体系的に語られてこなかったテーマに切り込んでいます。

お金に対する解像度が一段上がる読書体験になるはずです。

本書のポイント
  • お金は貯めるより使い方が大事
  • 収入より何に使うかが幸福度を決める
  • 物より経験にお金を使う
  • 見栄の消費は効果が薄い
  • 最高の使い道は時間を買うこと
  • 幸福度は期待値を下げることで上がる